20年近くライターをやってきて、一度だけ、ライターを辞めようと思ったことがあります。
それは、メーカーの研究所勤務から、広告会社に転職して半年くらいたったころです。
転職した直後、進行中の大きなプロジェクトに加わったため、たくさんある印刷物のいくつかの進行管理のような仕事をしていました。
校正をしたり、デザイナーさんや印刷屋さんとのやりとりをしたり。そんな仕事です。
それまで実験ばかりしていたのですから、ひとつひとつの作業が何に繋がるのか、さっぱりわかりません。
それなのに、デザイナーさんや印刷屋さんとのやりとりを、気がつけば一人でやっていることがあって、
「あれ? この仕事、こんなズブの素人に任せちゃってもできる仕事なんだ」
と思っちゃったんですね。
と同時に、研究所を辞めたことを心配した人から、実験できるポジションがあるよ、というお声掛けをいただいたりして。
そんなことが重なって、私は会社に辞表を出しました。
辞表は受理され、私は辞めるまでの1ヵ月ちょっとの間、別のプロジェクトのお手伝いをすることになりました。
そこで最後の仕事だと思って書いた仕事が、実は、転職して初めて、ゼロから書いた仕事でした。
書いた翌日に、上司から「読み手は誰?」という問いかけと当時に、「ゴミ箱に捨てたよ」と告げられることになります。
その時に、私が感じたのは、
あー、私、読み手がいるってことに気が付いていかなったなあ、ということ。
そして、
「辞める」と辞表を出している私に、こんなに手をかけようとしているこの人、いったい何者なんだろう?、という疑問がわき、
「あ、もしかして、この仕事、ほんとはもっとおもしろかったのかもしれないなあ」
と思うようになりました。
で、翌日、会社に相談したわけです。
もう受理されてしまった辞表を取り下げることはできないだろうけれど、外部スタッフなりなんらかの方法で、もう少しここで修業をさせてもらえないだろうかと。
結局、辞表は社長から直接返してもらうことになり、現在もライターを続けているわけです。
あの時、あのまま会社を辞めていたら、ライターという仕事をすることは二度となかったでしょうから、今私がライターをしているのは、辞めるはずだった私に真剣に向き合ってくれた上司や、辞表を何も言わずに反してくれた社長、社長を説得してくれた上長などなど、たくさんの方のおかげなんだなあと思うわけです。
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